冬の嘔吐下痢

嘔気下痢、腹痛、発熱、こういった症状が冬に出現すれば感染性胃腸炎、とりわけノロウイルス感染症を疑います。

小児ではロタウイルス感染も目立ちますが、成人の場合はノロウイルスが最多です。もちろん、サルモネラやカンピロバクター、大腸菌などの細菌性の消化器感染もありますが、夏に比べると細菌感染の頻度は大きく減少します。日本の冬の感染性胃腸炎の大半はノロウイルスを中心としたウイルス感染なのです。

高齢者の施設でノロウイルスが集団発生し、死亡者も出ている……。今の時期よく聞くテレビニュース。ノロウイルスの感染力はすさまじく、アルコールもせっけんも役に立たない「恐怖の感染症」というイメージもあるようです。ならば、嘔気や下痢が出現すれば、まずノロウイルスかどうかの診断をしてもらい最適の治療を受けなければ~~~~と思うでしょう

ノロウイルスの迅速診断キットはわずか15分程度で結果が出ます。そのため非常に便利な検査という印象があり、そのために「ノロウイルス感染を疑えば医療機関を受診して検査を受けたい」と考えたくなるのでしょう。ですが、我々医師は、多くの症例においてこの検査をほとんどすすめません。

なぜか??
この検査が保険適用になるのは、3歳未満か65歳以上、または悪性腫瘍など特別な疾患を有している場合に限られます。つまり健康な成人に対しては保険診療では検査できません。ときどき、「自費診療でもいいから検査を受けたい」という人がいますが、これは勧められません。診察代と薬代は保険で、検査は自費でというのは「混合診療」となり、今の医療体制の中では認められていません。

私が検査を進めない理由

ノロウイルスには特効薬がなく、整腸剤と胃薬、解熱剤くらいしか使える薬がない」というのがあります。

検査をして陽性と出ても、対症療法と水分摂取困難時の点滴くらいしかできることがないのです。陰性と出ても実際には感染していることがありますし、またたとえ実際にはノロウイルスが原因でなかったとしても、水分摂取が困難であれば点滴加療が必要になります。つまり、検査の結果が陽性でも陰性でも、「重症であれば点滴、さらに入院を検討」という治療方針に変わりはないのです。